大田区が進めている新空港線(蒲蒲線)が注目を集めています。
そもそも新空港線とは、蒲田駅⇔京急蒲田駅間の800mを鉄道で結ぼうという計画で、1990年頃より調査研究が始まりました。
このブログでは、HP上で調べても出てこない、「議会目線」を軸にした解説・考察をお届けします。
議会の様子
新空港線の整備については、議会は常に賛成多数を形成してきました。
2024年7月時点においても、大田区議会50名中39名(2/3以上)の議員が賛成しており、私の所属会派である「日本維新の会大田区議団」も賛成・推進派となっています。
なお、厳密に言えば、39名全員が本音で新空港線に賛成しているわけではなく、会派の決定だからやむを得ず賛成する(これは党議拘束・会派拘束と呼ばれたりします)という方もいます。
当然に逆も然り。
反対派のなかには、内心は賛成だけども会派の決定事項だからという理由でやむを得ず反対を表明する議員もいます。
私の知る限りでは、こうした議員は数名であるので、いずれにせよ賛成多数・反対少数の構成が覆ることはありません。
ちなみに地方議会には「長による再議請求権」というものがあり、長は、議会が “過半数の賛成” で可決した条例を蹴り飛ばす権限があります。
しかし蹴り飛ばされたとはいえ、長は当該条例案を再度議会に議決をかける必要があり、そこで新たに議会の “2/3以上の賛成” があれば、いくら長とはいえ当該条例案を蹴り飛ばすことはできなくなり、”可決” されるのです。
これを大田区に当てはめた場合、仮に大田区長が新空港線に反対し、かつ大田区議会での賛成派が2/3を下回っていた場合、この再議請求権によって条例が絡む部分については新空港線事業が進まないこととなります。
しかし、先ほども申したように、大田区議会では50名中39名の議員が賛成(2/3ラインを超えている)しており、なんといっても区長が賛成派なので、少なくとも次の2027年4月実施の地方統一選挙までは、無事に進むでしょう。
蒲蒲線を整備するメリット
大きな経済効果
令和6年4月、新空港線整備による区内への「経済効果」が10年で5,700億円との試算が大田区から公表されました。
なお内訳としては、消費支出(例:新空港線を使って大田区に遊びにきた人による区内飲食店での飲食代)として3,157億円、建設投資(例:新空港線建設のために建設事業者に払われる工事代)として2,603億円です。
単純計算ではありますが、1年で570億円の経済効果が見込めるのであり、これは大田区の令和6年度/一般会計予算(大田区が保険事業の特別会計を除いて使える年間の金額)3,412億円の16.7%に匹敵します。これほどの経済効果のある公共事業が他にあるでしょうか。
現在は、鈴木区長と大田区議会が一体となって早期実現をするという意向です。
一方で新空港線の「建設費用」はいくらでしょうか。結論から言えば、1360億円(うち大田区の負担金額は約315億円)です。厳密には国が1/3、自治体が1/3、事業者が1/3です。このうち、自治体負担分を都:大田区=3:7の割合で負担するので、大田区の負担額は小さくなっているのです。
加えて、大田区としては補助金や助成金制度を活用し、この大田区の負担金額315億円をさらに少なくしようと努力しており、さらなる負担軽減も視野に入ります。ちなみに鈴木区長は大田区の実質負担額を0円にまでできる可能性があるとも述べています。
また、反対派のなかにはこの315億円を「福祉等の社会保障にまわせ!!」という方もいますが、まさに管豹の一斑(視野が狭い)。73万人が暮らす大都市・大田区では315億円あっても目先の僅かな援助にしか繋がりません。
区内の東西アクセスの改善
区内西側からの羽田空港へのアクセスが改善されることで、羽田空港を利用する際や、羽田空港を利用する旅行者から区内西側が選ばれやすくなります。
そして、大田区内で天候に左右されない移動が可能になるほか、蒲田から渋谷・新宿・池袋方面に直通することが予想され、大いに便利になります。
今後の流れ
第1期
多摩川線を延伸し、蒲田から京急蒲田まで繋げる第1期の完成予定は2030年代後半で、およそ15年後を見込んでいます。
15年の内訳としては、国交省への申請にかかる期間が5年、実際の工事が10年です。
東急多摩川線・矢口渡駅より地下を掘削(大部分でシールド工法が用いられる予定)して京急蒲田駅まで繋げるため、工期が少し長めとなっています。
また、第1期工事とあわせて、蒲田駅・大森駅周辺の再開発、下丸子の鉄道立体化などが同時並行的に進められる予定です。
第2期
第2期は京急蒲田駅から羽田空港(大鳥居駅付近で地上へ出る構想)までの直接乗り入れを構想していますが、現在未定となっています。
第2期を進める上での一番の課題は、東急側と京急側でレールの幅が違うことです。
解決策としては、どちらのレール幅でも通れる電車「フリーゲージトレイン」にするか、どちらの幅の電車も通れるようにレールを敷く「三線軌条」にするかが有力ですが、どちらも金銭的・時間的コストがかかることから、慎重な議論が必要です。
先ほどの建設費用の説明も、第1期工事のみの話であり、加えて第2期工事に着工する頃には、JR羽田空港アクセス線も完成していると見込まれます。
大田区議会でも専ら第1期工事については議論が深まりますが、第2期工事については不透明な部分が多く、あまり語られません(というか語り得ない)。
所感
結論、第1期工事は「賛成」、第2期工事は「慎重な議論」を要するという所感です。
新空港線の真の目的は「新空港線を起爆剤として一気に大田区の再開発を進める」というものです。
京浜東北線の大井町駅・川崎駅が住みたい街ランキングで上位にランクインするなか、挟まれた大森駅・蒲田駅は低迷中であり、住みたい街・選ばれる街/大田区を実現するためにも、再開発は必須です。
選ばれる自治体になることは、税収の増加・投資の拡大・区内産業の活性化等、計り知れない恩恵をもたらす(もはやエビデンスも不要なほど自明)ものであり、新空港線は必要な事業と断言します。
一方で、数十年先には工事費用の上振れや羽田空港アクセス線という脅威も登場するなか、第2期工事については、結論ありきではなく、社会情勢に応じて可否を考える必要があるでしょう。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。